言葉はツール

「言葉はツール」なんてのはずっと前から語られてきたことだけれども、
自分の体験から感じたことを、改めて書いていこうと思う。
 
 

酒蔵には、海外からのお客さんがちらほら見える。

当然、会社としてもおもてなしをするのだが、
何となく違和感を覚えたことがある。
おもてなしの担当者がいつも同じなのだ。
 
その人たちは確かに英語で話すことができるのだが、
基本的には英語というツールの使い方を知っているというだけで、
伝えたい話題を持っているのとはまた別問題なのである。
 
僕も、英語を勉強してきたということで、
「外交要員」的に呼ばれることがたまにあるのだが、
正直、会社に入って間もないし、何を話していいかさっぱりわからないので、
何となく腰が重い。
(結局、楽しく話をして帰ってくるんだけどもね)
 

スウェーデンからのお客さん

先日、僕の勤めている会社の日本酒を扱っている、
スウェーデンのソムリエ兼レストランマネージャーのお客さんが酒蔵研修に来た。
僕はたまたま大学で英語を勉強していたこともあり、
酒蔵研修中、彼の案内人的な役割についた。
(そのときはじめて知ったのだが、スウェーデン人はみな英語が話せるらしい!)
 
彼と過ごしたのは2日間だけだったのだけれども、
蔵でいろいろ日本酒造りについて紹介しただけでなく、
一緒に「ごしたい」(長野の方言で「大変な」とか「骨の折れる」とか「面倒な」とかいう意味)
力仕事で汗を流したり、一緒に諏訪湖の一望できる公園にドライブに行ったり、
一緒に夕飯を食べたり、お互いの夢を話しているうちに、あっという間に仲良くなった。
 
「今度ウチのレストランで、スタッフとしてSakeをサーブしてみないか?
滞在中はおれの部屋に泊まっていけよ」なんて話もしてもらったし、
僕も来年の夏にスウェーデンに行くことにした。
 
言葉が通じたから仲良くなれた、というより、
僕は彼の人間としての魅力があったからこそ、もっと話したいと思えたのは間違いない。
「そんなことまで知ってるのか!」というくらい日本酒に対して熱心だったし、
言葉が通じない国だろうと、目の前に日本酒ことを勉強するいいチャンスが巡ってきたと思ったら、迷わず行動する。まさに、僕がこれまでできなかったことで、これから大事にしていきたいと思っていること。
 

伝えたいことファースト、言葉セカンド

 
確かに、会社のなかでは英語が話せる人が「外交要員」みたいなポジションにつくのだけれども、
造りの真髄を知っていたり、(クールジャパン!!)職人的な雰囲気を醸し出しているのは、
間違いなく一年目の僕でもなく、1年やちょっと造りに入った営業マンでもなく、
蔵に長く勤めてきた人たちである。海外のお客さんは、たとえ言葉が通じなくとも
当たり前のように仕事をする杜氏・蔵人の姿をみて、ジャパンを感じるのではないだろうか。
 
もし、蔵の人たちがなにか海外のお客さんに伝えたいことがあったり、
海外のお客さんが、職人たちに聞きたいことがあったりしたら、
やっぱり、職員本人を目の前にして話すのはまた違ったインパクトがある。
 
そんなとき、拙い英語しかしゃべれないけれども、僕のことを(いい意味で)ツールとして使ってもらいたい。そして、その事をきちんとみんなに伝えられなかったことを、少し後悔している。
 

「伝えたい」「聞きたい」という気持ちが大事

 
できれば、造りに携わる多くの人に、
その人の言葉(結局翻訳されてしまうにしても)、雰囲気で、伝えてほしい。
 
たとえ、言葉が直接には通じなくても、
造り手の「伝えたい」とお客さんの「聞きたい」という気持ちが
それぞれ満たされるとき、もっと良いおもてなしができるのでは。
 
そして、僕は醸造や化学のことはさっぱりだが、
そんな役割を果たすことができたら、「生きてる」って感じがしますね。
 
 
 
コミュニケーションの本質はそう。
ひょっとしたら、ビジネス的にはまた別問題なのかもしれないけれども、
いくら言葉が通じる人を集めても、「伝えたい」「聞きたい」があって、
うまくマッチしないことには最上のおもてなしにはならないだろうし、
その逆も然り、である。