「店員さん、いつもありがとうね」

僕が日常生活の中でひそかに楽しみを見出していることがある。 それは、店員に「ありがとう」と言うことである。

自分が店員として客に「ありがとう」というのではなく、 自分が客として店員に「ありがとう」というのだ。

それは、スーパーでレジを打ってくれたおばさんかもしれないし、 Amazonの商品受取の手続きをしてくれた コンビニのオネーチャンかもしれない。

さらに言えば、 特に必要だと思っていないプレミア会員の勧誘をしてきた ガソリンスタンドのオニイサンだったり、 リサイクルショップで僕のニューバランスの靴を 割と挑戦的な買取価格をつけて見積もったオネーサンだったり。 (もちろん、買取はキャンセルして後日他店で高く売った)

とりわけ飲食店ではできればキッチンの人の顔が見えるまで レジ前からキッチンを覗いて「ごちそうさまでした~」と言う。

温かいホスピタリティを示してくれた人にはもちろん、 どんなに「塩対応」でも、ちょっと不愉快な思いをしても、 軽く会釈をして「ありがとうございました~」と言うのが ちょっと楽しい。

サービスの上では僕たちは基本的に 「店員」と「カスタマー」の関係でしかない。

しかし、そこに求められてもいない笑顔と 「ありがとう」の言葉をこちらから投げかけることで、 人間と人間のやりとりであるということを チラリと勝手に出すのが、楽しい。

勝手に「売り切り(一切見返りを求めない)」の 良いことをした気分になって、楽しい。

これは、僕がかつて接客業をしていたときに 「店員」と「カスタマー」という関係をちょっと越えて、 心から「ありがとうね~」と言ってくれた時に 何とも言えない嬉しさと安心感を覚えたことに始まる。

友人に聞いた話だったか、 ウェブで見つけた話だったかは忘れてしまったが、 こんなエピソードがある。

コンビニの店員をしているとき・・・

ダボッとした作業着に頭にタオルを巻いた現場作業のアニキは 実は全然恐くない。よく気さくに話しかけてくれるし、 何となく顔なじみになれば

『いつものやつ(タバコ)ですね』 『おう、ありがとね~』

なんて会話も成り立つ。

一番怖いのは、仕事帰りに イラついているスーツ姿のサラリーマンだ。 店員がそこにいて、あれこれやってくれることが (悪い意味で)当たり前だと思っていて、 そのくせ「客は神」と言わんばかりに態度が悪い。

サービスを「売る側」と「買う側」という関係はあれど、 そこに人情みたいなのがチラッと見えると安心できるもの。

接客業にある、ある種の「緊張感」みたいなものを フッとほぐすことができたなら、 それを相手が望んでいようがいまいが、 僕はお年寄りに席を譲ったような感覚を得て ひとりでホクホクとしてお店を後にするのである。

ちなみに、 僕がサービスマン(?)に明らかに不快な態度を示すのは、 再三「テレビは置いてない」と言ったにも関わらず、 手に変な端末を持って夜遅くにNHKの受信料を 徴収しにやってくる業者に対してだけ。