聞くということには能動的な側面もある

 「聞く」ということには能動的な側面もある。例えば、「好きなおにぎりの具は何か?」という質問をした後に、「僕が好きな具はなんとカラアゲで、妻がかつて僕が辛い時間を過ごしていた時にカラアゲ入りの(両手の拳をくっつけて)こんなにデカいおにぎりをよく夜食に作ってくれたから」と付け加えると、聞き手は「あぁ、そういうこと(エピソードと絡めた好きな具を聞きたいの)ね」と理解してもらえる。「え、なんでそんなこと聞くの?怖い怖い!」と訝しがられずに済む。他には、「好きなタレントは?」という漠然とした質問に対しても、「僕は最近『舞いあがれ!』という朝ドラを見ていて、主演の福原遥が良い演技をしていると思う」と加えて聞けば、「あぁ、この人は演技が上手だと思う俳優について聞きたいのか」と、頭の中にたくさん浮かぶ好みのタレントの中からより具体的に好みを聞き出すことができる。さらには、好きなドラマの話題にまで発展するかもしれない。

 他には、相手が大事にしていることを聞きたいと思えば、自分の大事にしている考えをそう思うにいたるエピソードと共に語ることから始めることができるし、苦しかったことを聞きたいと思えば、自分がどんなことを苦しいと感じ、どう悩み考え、これまでの時間を過ごしてきたのかを、自分の言葉で語ることで、相手が答えやすい糸口を差し出すことができる。

 こうした聞くことの能動性を、頭の中で野球におけるトスバッティングに例えることがある。どうやらトスバッティングとはピッチャー役が投げた緩いボールを正確にミート(捉え)して、ワンバウンドでピッチャーに打ち返す練習のことらしい。打ちやすいところにボールをポンとトスすればピッチャーに正確に返ってくる良いバッティングが期待できるように、聞き手がテーマとなる文を付け加えて質問することで自分の質問の意図に沿った返答が期待できる。