日本酒 高級志向の一方で

石川・奥能登にある料理店でのこと。 これから酒蔵見学に行く、ということで 「酔いすぎないように」との注意がありながらも 4人で一合程度、と控えめに出された酒。

「やわらかく」(この表現しか見当たらない)燗のついた酒は、 まるでアルコール感が「きちんと正座している」ようで、 旬の海鮮料理を引き立てるとも決して自己主張してこない。 あとで訪ねたら、それは「宋玄」の普通酒(「純米」「吟醸」などのいわゆる高級酒クラスではない、アルコールが添加してある酒)とのことだった。「これは!」と思えた瞬間だった。

学生時代、僕はバースタイルのフレンチ居酒屋でバイトをしていた。 そのとき出会ったお客さんに、こんなことを言った人がいた。

「○○(銘柄)のお酒は口に合わなかったのよねぇ」

そのときの僕はちょっと残念な気分だった。 一口に「○○の日本酒」と言っても、 米だけで造られた「純米」もあれば、 よく磨かれた米を長期低温発酵させて造られた「吟醸」もある。 それともその両方の特性をもった「純米吟醸」かもしれない。 その他にもたくさんのカテゴリが存在する。 その人が飲んだのは、比較的安い「普通酒」というカテゴリの 酒だったかもしれないし、他のカテゴリの酒を飲めばまた 「○○(銘柄)」への印象は変わるんじゃないかと。

ただ、それはちょっと僕が「にわか日本酒マニア」だったからの話。

その人にとっては、はじめてその銘柄の酒を飲んだ経験が、 「○○(銘柄)」に対する印象の全て。 はっきり言ってどんな製法かなんて知ったことじゃないのだ。

僕はマーケティングに関しては全くの門外漢なので 偉そうなことは言えないのだが、 「これ美味しいよ!」「これがおすすめだよ!」と言って回る アウトバウンドなマーケティングではなく、 何かのきっかけで興味を持って、自発的に求める消費者に 「見つけてもらう」インバウンドなマーケティングにも 市場を求めるならば、

気軽な居酒屋で何かの機会にふと出てくるような、 その銘柄を知る入り口になりそうな普通酒クラスの酒こそ、 本当においしいもの(間違いなく、料理を引き立てるもの) でなくてはならない

(先述のお店は高級店だったが。。)

造り手の努力はもちろん、飲食店の出しかた(先述の燗酒は秀逸)、 さらに言えば品質を損なわない適切な流通、保管も大切。 酒はデリケートだけに、酒を取り巻くあらゆる業種が力を合わせてこそ。

(こんな風に書くと「飲み物」なのに大袈裟なんだよなぁ。。 日本酒としては間違いじゃない、だけど、「飲み物」としては なんかヘンだ!)