本当のわがまま

かつて僕が付き合っていたある一人の女の子がいた。 僕は彼女のことをわがままな人だと思っていた。 いや、確かにわがままなところもあった。 ただ、それよりも酷いわがままだったのは、 実は僕の方なんだとふと思ったときのことを思い出した。

僕は彼女の言うことを、たとえ自分の意思とは違っていても、 受け入れられる自分に、どこか酔っていたというか、 「わがままを受け入れられる懐の広さをもってる自分」を 気に入っていたフシがあった。

そんな風に思っていたから、デートのプランを立てているときに、 基本的には彼女の言うことを何でも聞いていた。

出掛けたはいいものの、あるときどこか楽しめないでいる自分が いることに気づいた。そしてそれが態度に出ていることも 何となくわかった。そのとき、僕は本当は違うことがしたいと思っている自分に嘘をついていたし、心から楽しんでいないのに、 楽しんでいるフリをしたことで彼女に嘘をついていた。

それからしばらくして思った。 本当にわがままなのは、自分のやりたいことも積極的に示さないくせに、寛容なフリをして相手の言うことをホイホイ受け入れておきながら、イヤだということを言葉に出さずに態度に出す自分の方なんだと。

赤ん坊は言葉が使えないから、もし自分が何かしてほしいことが あったら、それを態度で示すしかない。でも、大人は言葉が使える。

態度だけでイヤだと伝えるのは、赤ん坊でもできる。 もう大人なのだから、きちんとコミュニケーションでもって 自分のイヤなこと・やりたいことを伝えて、 自分のやりやすい状況を作ることこそ思いやり。 自分にも相手にも嘘をつかずにいられる。