酒造り、はじまりと終わり

去年の10月から約7ヵ月に及んだ酒造りのシーズンが、 間もなく終わろうとしている。 陽気な季節労働の蔵人たちがいてにぎやかだった蔵からは 彼らの笑い声が聞こえなくなり、

みんなで集まって作業をした麹室も、酒母室も、 すっかり片付いてしまった。そこにはもはや菌の影も感じない。

経験や知識がなくて、

やることがない できることがない やってもうまくできない

ゼイタクながら色々なことに悩んだり、ヘコんだりした。 (その辺は今後も大きなテーマである)

それでも酒造りのダイナミズムに触れられて、純粋に楽しかった。 それを僕を訪ねて来てくれた友人や、こちらで出会った友人に、 自分の言葉で語ることができた。 そして、「こういう美味しい日本酒もあるんだ」と言ってもらえた。 これは、僕が飲食店時代から抱いていたちょっとした夢でもあった。

そんな造りの時期が、今終わろうとしている。

しばらくは酒の醸造そのものから離れた仕事をするが、 また夏に、翌シーズンに向けて蔵の掃除をしに戻るころ、 がらんとした蔵を見て、思わず泣いてしまいそうだ。

去年の夏はフル稼働している蔵を見たことがなかったから、 何とも思わなかった。 それに、これから何が始まるのかよくわからないままに、 ひたすら蔵を掃除したり、一人で道具を洗っていたりした。 「早く始まらないかな」と思う日々だった。

でもまたすぐに始まる。 今は少し定休のスケジュールのなかで少し休みたいけれども、 じきにまた造りが始まるのが楽しみになりそうだ。

季節醸造である限り、 酒造りは始まりと終わりを強く意識させられる仕事。 それも、楽しさの一つかもしれない。